[PR]テレビ番組表
今夜の番組チェック

■第2回 アイルランド音楽の楽譜について考える

●アイルランド音楽の楽譜の背景
 アイルランドの伝統音楽に、もともと楽譜はありませんでした。子どもの頃から、家族や近所の人が楽器を演奏していて、いつしか自分も、見よう見まねで弾き始める。。。そのつながりだから、楽譜なんて必要なかったからです。
 でも、実際のところ、今では、膨大な数のアイルランドの伝統音楽の楽譜があります。なぜ、こんなに楽譜が出回ったのか?いちばんの理由は、アイルランドが非常に貧しかった時代に、数多くの移民が出たことだと思います。アイルランド各地の楽器名人たちも、たくさん米国などに渡っています。
 故郷を離れると、身近にあたりまえのようにあった音楽のことが、とても懐かしく感じられると思います。移民のコミュニティーの中で、セッションや、伝統音楽の生演奏でダンス・パーティーをするのは、大きな楽しみだったことでしょう。夜毎に、あちらこちらの集りに引っ張りだこの演奏家たちにも、新しい出会いがあり、やがて曲を収集し、楽譜にする人が現われる。。。19世紀末から20世紀初頭の米国に、こんな流れがありました。こうして生まれたのが、有名な『オニールの1001曲』です。
 このような、歴史的な背景に加えて、楽譜が普及したもうひとつの理由に、アイルランドのダンス音楽は1曲1曲のメロディーが短く、楽譜に書きやすい、ということがあると思います。しかも、ダンス・チューンは膨大にあり、同じ曲でも、人によって、また地域によって、少しメロディーが違ったりするので、収集癖のある人には、たまらないハズです。細かいことをいえば、リズムの特徴や装飾音などを五線譜の中に正しく表現できるのか、という問題もでてきますが。ただ、伝統音楽の演奏家は、核になるメロディーを覚えたら、あとは自分のスタイルで弾いてしまうので、細かいことは必要ないし、こんな曲もあるんだ、という手がかりになれば十分なのです。

●楽譜を使うことについて考える
 音楽教育が普及した現在では、アイルランドの伝統音楽の演奏に、楽譜を利用している人も多いことでしょう。しかし、アイルランドの伝統音楽を知らない人が、楽譜どおりに正確に弾けたとしても、伝統音楽を演奏できたということには、ならないと思います。たぶん、ナンカ違う。。。ということになるのです。その「ナンカ」が、楽譜に書けない伝統的な表現なのです。そのため、楽譜の普及を危惧する人もいます。
 でも、子どもの頃から耳で覚える訓練をしていない人にとって、いきなり耳コピーするというのは、ものすごく大変なことなのです。そこに楽譜があったら、取っ掛かり易くなるのではないかと思います。楽譜の読解力は。。。小学校の音楽の時間に、教科書の楽譜の下にドレミを書いて、なんとかリコーダーを吹いていたような人なら、たぶん大丈夫です。音楽を聞き取る力と、楽譜読解力、どっちも不完全だとしても、近道したり遠回りしたりして試行錯誤しながら、楽器を弾くのを楽しめるようになるのも、いいのではないでしょうか。
(2002年11月13日 記)